金烏玉兎庵

『冒険の書』の問題点 ※閲覧注意

本日は、孫泰三さんの『冒険の書』について書きます。
ちなみに、まったく推奨しないので、読まなくてもよいです。

そして、ベストセラーともいわれている本に、こうしたことを書くのはいかがか、
…と、多少、迷いがある中で書いている、というような内容なので、
この本や孫泰三さんのファンの方、
あるいは、いわゆる「新興の学校」に関わっておられる方も多少不快に思われるかもしれませんので、
閲覧につきご注意くださいませ。

さて、『冒険の書』です。
「AI時代のアンラーニング」と副題があり、
いわゆる既存の教育に対して疑問を投げかけ、子供を一個の人間として尊重し、
「個性」を伸ばすために好きなことを徹底的にやらせましょう!
…みたいな本で、Amazonの評価において只今現在、4.2の評価がついています。

このような簡単な要約だけを見ても、
若い方であれば、大いに結構だと思う方が多くおられる一方、
多少なりとも算命学をきちんと学んでおられる方であれば、
眉を顰(ひそ)められるのではないかと思いますがいかがでしょうか。

何が問題なのか?

先に結論を書いてしまえば、
そこにまるっきり歴史観がない、そこに問題があります。

確かにこの本では、数多の偉人が登場し、その言葉が随所にちりばめられながら論が展開されていくのですが、
いってしまえば、「ぶつ切りの知識を寄せ集めた」が如き代物で、

いわゆる浅学の徒であれば、たいそう立派なことが書いてある!
…と、感動しそうな体裁にはなっているのですが、

実際のところを言えば、まるでそこに芯が通らない、軸となるものがない内容で、
いや、「AIとともに在る未来」を展望するという「軸」があるといえばあるのですが、

大地の上に、いかに立派そうな木を立てたところで、
根っこがない、
あっても「寄せ集めの根っこ」の上に立つ木などは簡単に倒れてしまいますね。

この本は、そういう本です。

安岡正篤先生が、
幼少期より漢学に親しんでこられたけれど、
高校(いわゆる東京大学に進学するための一高)に進学された際に、
これからは世界を知らねば、と洋学を一生懸命学んだものの、
一生懸命学べば学ぶほど、気持ちが悪くなって、結局漢学に戻ってきた、
…というようなことを書いておられるのですが、

論や思想というのは、
常に、横軸と共に縦軸がなくてはなりません。

これはつまり、
何かを論じる、主張する、説く、
…というときには常にその背景と展望の両方が必要で、
その背景と展望を得ることで、その論なり思想なりというのは揺るぎないものとなります。

例えば、西洋の思想書というのは、
系譜はあるのですが、一人一人、一つ一つが独立して展開されている、
つまりぶつ切りで展開されていて、
西洋の思想を遍く貫く論の軸というのがありません。

それゆえに自由であり、それゆえにクリエイティブである、という面もあり、
短期的にはそれで良いのですけれど
=それで成果は出るのですけれど、

そこに根っこがないために、本人に意志や信念が育たず、
確かなものをつくったとしても、誰かの承認を求めることとなり、
その先において、結局、権力やお金を持つ人たちに、
簡単に利用・搾取されることとなっていきます。

一方で、その背景と展望の両方を備えた論なり思想なりというのは、
揺るぎなさをもつので、承認を必要としません。

なぜ、それが必要なのか?
なぜ、それをしなければならないのか?
…というときに、
人間は、未来だけを展望して見定めることは出来ません。

さらにいえば、
人間は、未来のためだけに「踏ん張る」ことは出来ないもので、
そこに過去からの裏付けがあることで「踏ん張る」ことが出来るのです。

そして、既存の学校教育は、
完全ではないかもしれませんが、少なくとも「根っこ」を育てることは出来ます。

その意味で、
この本が説く教育をリアルに実行していくことは、
人形兵を育てることにつながるのだともいえますね。

「キラキラの未来」だけに向かって一心不乱に突き進んでいく。
ハガレンのあの場面が目に浮かびませんか。

ちなみに、最近は、IT長者が学校をつくることが流行っているようですが、
そういう学校を含めて、新興の学校というのは、
この本にあるような教育を採用している学校が多くあります。

そして、そういう学校は、
「流行りの教育」に飛びつくミーハーな保護者の方には人気で、
マーケティング的には大いに成功している感じはあるのですが、

実際にその学校に通っている方の様子を拝見していると、
そういう「流行りもの好きのミーハーな親のミニチュア版」みたいになっているケースが多く、

子供のうちからクラウドファンディングに取り組むとか、
子供のうちからインフルエンサーを目指すとか、
…多少、大丈夫かな?みたいに感じることが少なからずあります。

現代の人たちは、「歴史観」というのを軽視するのですが、
歴史観なしに強さを得ることはできません。

陽宅と同じように陰宅が大事であるのと同じように、
未来のためには過去が必要で、
その未来と過去をつなぐのが「歴史観」であるのですが、

本来、待ったなしで今、日本人が取り組むべきは、この歴史観についての教育です。

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