『TENET』と『インセプション』と十二大従星の世界

※クリストファー・ノーラン監督の『TENET』及びその映画と「兄弟のような関係」にあるといわれる『インセプション』について、壮大なネタバレを含みますのでご注意ください。

さて、『TENET』を観て、はじめて『インセプション』で示されたことの意味が分かった方も多いのではないかと思いますがいかがでしょう?

『TENET』は、現在から未来に向かう時間の流れと、未来から現在に向かう時間の流れ、
平たくいえば過去と未来という今現在を極とした陰陽二元を描いており、

『インセプション』は、現実と夢、つまり、人間を極としてその覚醒時間と睡眠時間という陰陽二元を描いています。

この2つの映画を観ると、
私たちは通常、過去(に基づくもの)や現実、覚醒時間のほうに重心を置いて生活し、生きているけれど、
実は、未来や夢、睡眠時間と過去や現実、覚醒時間というのは同価値であることが描かれており、

そのうえで、
『インセプション』においてコブが睡眠時間、夢へのアクセスを得たことが、彼に悲劇をもたらし、
『TENET』においてはセイターが未来へのアクセスを得たことが、彼に経済的成功をもたらす、

一方、
私たちが不慣れな「未来や夢、睡眠時間」というものが、
扱いを誤れば悲劇となることもある一方で、適切に使うことができれば実りをもたらすものである、
…というさら上の次元での陰陽が示されています。

この2つの映画に陰陽思想を重ねることを突飛であると感じる方もいるかもしれませんが、
『インセプション』において渡辺謙さんという東洋人が起用されたのは、
この2作には東洋における陰陽思想がベースに在る、ということの暗示と思われ、

東洋思想の安易な持ち込みによる悲劇=『インセプション』と、
それを鍛錬と適切なルールを得て扱うことの先にある勝利=『TENET』という見方もできるのではないかと考えます。

その意味で、実験段階の『インセプション』、実用段階に近づいた『TENET』ということもできます。

では、『TENET』に描かれた、未来へのアクセス、未来はいかにして使うのか?
といえば、それは、『TENET』の終盤において、

過去(現在からの前進)と未来(未来から現在に向けての逆行)がレッドとブルーに別れて共同戦線を張る、
あの場面において与えられているその役割にヒントがあります。

ブルー(未来から現在に向けての逆行)の役割は、
敵の除去と、情報の収集、そしてその情報を説明すること。

ところで、レッドだブルーだといって、
『TENET』を観ていない方はちんぷんかんぷんだと思うのですが、

例えば算命学における十二大従星の、

身体を持つ星、天印星、天貴星、天恍星、天南星、天禄性、天将星、天堂星
身体を持たない星、天胡星(実質的に)、天極星、天庫星、天馳星、天報星

という区分けで、

身体を持つ星が、現実、覚醒時間、現在から未来に向かう流れを担うレッド、
身体を持たない星が、夢、睡眠時間、未来から現在に向かう流れを担うブルー、

…といえば、イメージしやすいのではないかと思いますがいかがでしょうか。

実際、『インセプション』も『TENET』も、
十二大従星の世界観で捉えると、びっくりするほど理解が深くなります。

一方で、通常分かりにくいといわれる、
身体を持たない星の人たちの役割もまた、その視点で眺めれば、とてもよく理解できるように思います。

ちなみに、『インセプション』のほうでは気になりませんでしたが、
『TENET』のほうは、字幕の和訳が緩慢で、
それが『TENET』という映画を分かりにくくしている感じがします。

例えば、
『TENET』の主人公であるジョン・デヴィッド・ワシントンには役名がなく、
セリフにおいて「主役」と和訳されるそれが唯一の立場を示す言葉なのですが、

この「主役」は実際には「protagonist」といっていて、
実際、protagonistは主役と和訳されることが多い言葉ですが、
この映画の構造上、「筋書きの書き手」というほうが適切であり、そのように和訳されて初めてこの映画が理解できるのではないか?
と思います。

あるいは、終盤、ニールが、「秘密が一番」という軽く見えるそのセリフは、
実際には、「the policy is to suppress.」といっており、policyにtheがついていることから、
「過去と未来の両方に関わる者は抑制するものだ」的な意味かな、と思いますが、

ここでも、「suppress」 を秘密と訳すのは極めて浅薄な理解であり、
本来この「suppress」は抑制、過去に引っ張られたり、未来に引っ張られたりする中間にあっては、
どちらにも引っ張られないよう抑制することが大事である、
というのが本質的に示すところであったものと思います。

もっとも、限られた文字数でそれを伝えることは難しく、
原文・原典を離れると、どうしても浅くなるのは致し方のないところではありますが。

なお、「tenet」とは、集団における主義・信条を示す言葉です。
いったいそれがこの映画においてどういうモノなのか?意味を持つのか?

それは、ジョン・デヴィッド・ワシントンに役名がなく、「protagonist」と示唆されるのみであることと、
密接に関連していると考えます。

が、長くなったので続きは改めて書きます。

※Netflixでは、『TENET』も『インセプション』も観られます。

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