『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』に思う東洋思想の普及

昨年から、行こう、行こうと思いつつ、なかなか機会がなかった『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』を、
ギリギリセーフで観に行ってまいりました。

先日の『THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語』もそうですが、
最近は、古典的で圧倒的な「the 芸術」よりももう少し日常に寄ったような作品の展覧会に心が惹かれます。

今回の柳宗悦展も、まさに「日常の中の芸術」で、
そもそも「民芸」というワード自体、「民衆的工芸」のことを指し、
その範囲は日常的に使われる工芸品です。

昨日、ル・コルビュジエの『家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない』という言葉を引用しましたが、
柳宗悦さんの民芸というのも、まさに「暮らしの中の芸術」であり、

「日常にアートを!」
「感性豊かな生活を!」
「アートな生き方に向かおう!」

…というような感じがあります。

この方は、千葉の我孫子にコロニーをつくって、
民芸運動をともにする仲間と日常の中に芸術を折り込む共同生活を送ったそうですが、

誰かに似てるな、と思ったら、
昨年、汐留のパナソニック美術館で観た『サーリネンとフィンランドの美しい建築 展』でその作品を観た
エリエル・サーリネンも、確か芸術家仲間と同じような共同生活をしていました。

ちなみに、エリエル・サーリネンの息子さんは、プロダクト・デザイナーのエーロ・サーリネンで、
まさにこの親子も「日常の中にアートを」という志向の先に、
日常に息づく様々な美しい家具や織物のような室内装飾から、日々を過ごす住宅や学校などの建築を造った方でした。

柳宗悦とエリエル・サーリネンは19世紀末から20世紀にかけて生きた同世代の人ですが、
その時代は、
大衆が世界的に啓蒙され、
単に動物的に生存することに留まらず、
生きるその日常に美を求め、思想・思考を刺激するモノを求め始めた時代であったのかもしれないな、と思いました。

そういう人がほとんどいない、
日々をアートの中に生きる、いや日々をアート的に生きる人がいない時代であったからこそ、
先駆的な位置にいた人たちが、その火を絶やすことなく育てるために、
集まって共に生きる、ということに向かったのだろうと思います。

そして、遅ればせながら、
私は只今現在、
生きるその日常に美を求め、思想・思考を刺激するモノに囲まれることを目指して過ごしています。

現代は、そういう人が増えてきて、たくさんいる時代なので、
「集まって共同生活をする」ということまでせずともそういう様子をネット経由で見られるのはありがたいことですね。

生活の中に息づく豊かな創造性は、
無視すると、どんどん弱まり消えていきます。
注目すると、どんどん強まり色鮮やかに際立ちます。

…そんなことを考えつつ、
東洋思想というのも、それを実践する人たちの「コロニー」があって、
そこで共同生活などをすると相互に刺激し合えて楽しいのかもしれないな、と思いました。

実践する人とともに過ごしていると、
深まるものもあり、新たな気づきもありそうです。

なお、柳宗悦は、民芸を根付かせるために、
出版(基準の提示)、美術館(展示)、ショップ(流通)という3本柱を活用したそうです。

民芸すらも、普及のためには構造的な活動を要したのだということを知ると、
東洋思想の普及というのも、構造的な活動が必要なのだろうな、と思いました。

既に、そういう活動をしている方もおられますが、
私も、ちょっと真剣に、「東洋思想の普及」の仕組み、構造を考えてみる必要があるかもしれません。

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